クロガネ・ジェネシス
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第一章 海上国家エルノク
第13話 相容れぬ者達
「フン……こんなものか……」
リベアルタワーでは、バゼルと2つの頭を持つミイラ男との戦いが繰り広げられていた。
否、すでに終わっていたといった方が正しいかもしれない。
『ア"……ア"ア"……』
2つの頭を持つミイラ男は息も絶え絶えに横たわっていた。
どれほど手ごわいのかと思い挑んだ戦いだったが、バゼルにとっては腕試しにもならなかった。水を含んで筋肉が強靭になっただけでは、バゼルの実力と亜人としての力には到底及ばない。爪で切り裂き、力づくでその肉体を引き裂き、いとも簡単に倒してしまったのだ。
時間にして数分とかからなかった。
「体が鈍っていないかが心配だったが、どうやらその心配は杞憂だったようだ……。さて、あいつらはどうなったかな?」
血の海に沈んだミイラ男。バゼルはその2つの頭をぐしゃりと踏み潰し、階段を再び上り始めた。
リベアルタワーの屋上。エルノク首都アルテノス全体を見渡せるこの屋上は、普段から人など来ない。そこに現在いるのは、アーネスカ・グリネイド、アルトネール・グリネイド、猫の亜人のユウの3人だ。
が、彼女達は今自分達以外の存在を前に息を飲んでいた。
「こんな所で何をしているのかしら?」
その声が聞こえたのは、アルトネールが未来予知を行ってから20分近く経った頃だった。 腰まで届くほどの黒髪のロング。超ミニの黄土色のワンピース。それは12年前、アーネスカの両親を殺し、アルトネールとギンの2人をグリネイド家の屋敷からさらったあの女だった。
彼女と面識がないのはこの中ではユウだけだった。
その声が聞こえたのはアーネスカ達がいる場所より頭上。人が本来立ち入るところではない屋上の扉がついている屋根の上だった。女は唇を吊り上げて不気味に笑っている。何がおかしくて笑っているのかは本人以外誰にもわからない。
「お前は……!」
アーネスカはガンベルトから回転式拳銃《リボルバー》を抜き、その女に向けて構える。
「アーネスカ……あの女を知っているのですか?」
どうやら知り合いらしいアーネスカと、自らをこの『リベアルタワー』にさらった女を見比べ、アルトネールはアーネスカに問う。
「お父様と……お母様の仇……」
「なんですって……!?」
アルトネールは驚愕した。12年前、グリネイド家の両親を殺した亜人の顔をはっきり見たのはアーネスカだけだったのだ。それだけではない。そのとき両親を襲った亜人は人間とは似ても似つかない姿をしており、今現在対峙している女はどう見ても人間にしか見えなかったからだ。
「それが本当なら……」
ユウは目の前の女に対し威嚇の構えを示す。膝を緩やかに曲げ、全身を前のめりにして、いつでも跳びかかれる体勢を作る。
「あらぁ?」
女は小ばかにしたような態度を許さない。その瞳はアーネスカに向けられていた。
「私……弱い人に興味はないって言ったはずだけどぉ……?」
「黙れ!!」
アーネスカは語気を強めて女を睨みつける。
「へぇ……中々心地いい殺気を放つのね……あなた……。いいわ。その殺気に敬意を表し、私の名前を教えてあげましょう。私の名はレジー。今からあんたと……そこの裏切り者を殺すものよ……!」
「フーッ!!」
レジーの視線がユウに移った瞬間、ユウは鼻息荒く威嚇した。すでにユウは臨戦態勢のようだ。
「裏切り者ですって……?」
なぜユウが裏切り者なのか。大体予想は付くものの、それでもアーネスカはレジーと名乗った女に問いかけた。
「亜人でありながら人間の側につき、亜人族を裏切った者……。立派な裏切り者じゃない……」
「人間と亜人は対立すべきだとでも言うの……?」
「そうよ!」
そういってレジーは両手を広げた。そして大仰に、芝居がかった口調で話し始めた。
「60年前、亜人は人間より優れた存在として生まれた……にも関わらず、それより弱いはずの人間は未だに万物の霊長を気取っている。これは間違いだわ! だから作り変えるのよ! 食物連鎖のピラミッドの頂点に立つのは本来人間であるはずがない! 非力で、武器を手に取らなくてはまともな戦が出来ない人間が、食物連鎖のピラミッドの頂点に立つのは間違っている! 私達亜人が、正しい食物連鎖の流れを作るのよ!」
「確かに……ある意味あんたが正しいわよ」
アーネスカはレジーを睨みつけたまま答えた。
「ふうん?」
興味ありげにアーネスカの次の言葉を待つ。
「人間は食物連鎖の流れから外れた存在。野生の獣よりもはるかに単体での力は劣るわ。だけど、人間には考える力がある。力の優劣だけで食物連鎖の輪に無理やり戻す必要なんかない!」
「そうかしら?」
レジーはまたもアーネスカを小ばかにするような表情をする。
「人間は物欲の激しい愚かな生き物よ。生きるためにではない、自らのエゴを満たすために平然と他の動物を殺す。結果、特定の動物が絶滅に瀕してもその結果を振り返り反省することはほとんどない。そのくせ、同族を殺すことに、異常な恐れを抱いている。人間の滅びは、亜人だけではない、ありとあらゆる動物の願いでもあるのよ!」
「人間だって死を恐れるわ。だから生きたいと思う。そして、人間の中には動物のことを憂う者も、亜人を憂う者もいる。あんた1人の思想で、人間を正義か悪かに二極化することは出来ない!」
「そう。なら殺しあうしかないわね。亜人の基本思想は人間抹殺なのだから……」
「いいわ……」
アーネスカは構えていた回転式拳銃《リボルバー》をガンベルトに収めた。そして、左手側にある回転式拳銃《リボルバー》を引き抜き、ガンベルトに収められている魔術弾を、引き抜いた回転式拳銃《リボルバー》のシリンダーに1発1発丁寧に装填していく。
「あんたはお父様とお母様の仇、互いの心を満足させるために戦いましょう!」
装填が終わり、撃鉄を起こす。そして右手に通常弾を装填した回転式拳銃《リボルバー》を、左手に魔術弾を装填した回転式拳銃《リボルバー》をそれぞれ構えつつアーネスカは啖呵を斬る。
「望むところ!」
「アーネスカ!」
自ら戦いに挑もうとするアーネスカを制止しようと、アルトネールは声を荒げた。彼女は未来を知っている。このままではアーネスカもユウも殺されてしまう!
「アルト姉さん……下がってて、私があいつを必ず倒す!」
「……」
アルトネールはアーネスカを見つめた。その瞳は憎しみと殺意が入り混じりドロドロとした感情が渦を巻いているように見えた。同時にその瞳から強い決意のようなものを感じた。
――だめ……私では……アーネスカを止められない……。
「ユウ!」
「……!」
臨戦態勢だったユウがアーネスカの言葉に反応する。
「サポートお願い。 あたし1人じゃ……あいつを倒せる自信ないわ……」
「りょーかい!」
「行くわよ……!」
レジーが右手を振り上げ、その手をまっすぐアーネスカ目掛けて振り下ろした。距離は数メートル離れている。だがアーネスカはそれが攻撃であることを察知した。鉄線による攻撃。以前アーネスカが縛り上げられた攻撃だ。
「エクスプロージョン!」
爆発系魔術弾を発射するアーネスカ。狙いはレジーの右手の平だった。
爆音が鳴り響く。爆煙がレジーの体を包み込む。
「ニャッ!!」
すかさずユウが駆ける。煙に紛れてレジーを攻撃するつもりなのだ。
「見え見えなんだよ!」
レジーが叫ぶ。アーネスカの目には、何が起こったのかは見えない。しかし、次の瞬間、ユウの体は鉄線に縛り上げられていた。
『ユウ!!』
アーネスカとアルトネールが同時に叫ぶ。
「ニッ……ァァァァ!」
強烈な細い鉄線の締め付けがユウを襲う。レジーは縛り上げたユウの体を自身の周囲にグルグルと回転させ始めた。遠心力でさらにユウの体を締め上げる力が増す。
「ニャァァァァァアア!!」
「この……!!」
怒りに打ち震え、レジーに銃口を向けるアーネスカ。
「今私を撃ったら、この娘……落っことしちゃうかも……」
ニヤリと笑いながらそう告げるレジー。自分よりほぼ同じくらいの体重を持つ亜人を軽々と片手で振り回すその力が、どれほどのものなのか想像もつかない。
「クッ……!」
アーネスカは苦悶の表情を浮かべて、振り回されるユウの姿を黙って見ているしかない。
「ア、アーネスカさん……私に、構わないで……!」
「だ、だけど……」
自分に構わず撃てと進言するユウ。しかし、そんなこと言われても、アーネスカに誰かを犠牲にした戦い方は出来ない。
「フフフッ……主人思いねぇ〜ムカつくぐらい……」
その途端、レジーの表情が憎悪にまみれた。レジーはユウの体をそのまま屋上の床に、背中から叩きつけた。
「ギャッ……!!」
痛みに呻くユウ。呼吸が一瞬止まる。背中から叩きつけられたのに、みぞおちを殴られたかのような錯覚を感じる。
「ァ〜……ハァ……ァ!」
肺に空気が入っていかない。背中から伝わる衝撃は弱い断続的な痛みとなってユウを襲う。
「ユウ!」
アーネスカが倒れたユウに駆け寄る。
「他人の心配してる場合かしら?」
「クッ……!」
足を止め、レジー目掛けて魔術弾が装填された回転式拳銃《リボルバー》を再び構える。
「きかないっての……」
「エクスプロージョン!」
それでもアーネスカは魔術弾を発射した。
爆煙に包まれたと思ったら、再び鉄線が飛んでくる。アーネスカは走り回りそれを回避した。爆煙に包まれているということはレジーからも見えていないはずだからだと判断したからだ。
そして、再びレジーがいるであろう爆煙に向けて銃口を向ける。
「フリージング!!」
「なにっ!?」
アーネスカが次に放った魔術弾は氷系の魔術弾だった。ひんやりした空気がアーネスカの肌を刺す。それがレジーに直撃した直後、爆煙が晴れ、氷付けになったレジーの姿があらわになった。
足先から顔まで氷付けになったその姿は普通の人間なら即死しているレベルだ。あくまで普通の人間の場合ではあるが……。
――やった?
氷付けになった者は人間であれ、亜人であれ普通は死ぬ。アーネスカは恐らく2度と動かないであろうレジーから目を離し、ユウの元へと駆け寄った。
「ユウ! 大丈夫!?」
「ハァ……ハァ……アー……ネスカさん……油断しないで……」
何とか呼吸を再開し肺に空気を取り込んでいるユウは、何とか言葉をつむぎ出す。
「え?」
「アイツは……ただの亜人じゃ……ない……!」
ユウがそう告げた直後、屋上の屋根からボロッと氷が落ちてきた。
「……!」
アーネスカはユウに肩を貸し立ち上がりながら、何事かと凍りついたレジーに視線を走らせた。
レジーの体を覆っている氷にヒビが入っている。そのヒビが徐々に増えていき、いくつもの氷が次から次へと砕け落ちていく。
「嘘でしょ……?」
次の瞬間。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
氷が完全に砕け散った。ガラスが砕け散るのとはまた微妙に異なる破砕音が響く。冷たい氷の拘束から解放されたレジーは、獣じみた咆哮を上げて、憎憎しげにアーネスカを睨みつける。
「人間がぁ! この私を殺せると……思うなぁ!!」
レジーの右手が光り輝く。バチバチと不気味な光を放っている。
「いけない! アーネスカ! ユウ! 逃げて!」
アルトネールの声が届いているか届いていないかはわからない。しかし、この攻撃をどうにかしなければ、アーネスカもユウも死んでしまう。
「終わりだ!」
不気味な光を放つレジーの右手。それがアーネスカに向けられた。
「サイクロン・マグナム!!」
この場にいない第三者の声が鳴り響く。直後、レジーが立っていた場所が崩れた。
「なっ……!?」
ガラガラと屋根が崩れ落ちる。レジーは崩れ落ちる瓦礫の下敷きになり、その場から一時的に姿を消した。そして、その代わり屋上への扉を通って、アーネスカとユウがそれぞれ見知った2人が現れた。
「ネル!」
「ギン!」
「ハァ……ハァ……やっとたどり着いた」
「この塔、下から上までのぼると本当に遠いな……」
ネルは肩で息をし、ギンも若干息が乱れていた。ネルはアーネスカとユウに目を向ける。
「……2人とも大丈夫?」
「まあね……」
ギンもアルトネールを気遣う。
「怪我ぁねぇか? アルト」
「おかげ様です。ありがとう」
しかし、安息の時間はすぐに終わりを告げる。
「お前らぁあああ!!」
レジーが瓦礫の中から姿を現す。
「おいおい……あの女怪我1つしてねぇぞ……」
「なんて奴なの……」
ギンもアーネスカもレジーの恐ろしい生命力に驚かざるを得ない。彼女は一体なんの亜人なのか……。氷付けにされ、瓦礫に押しつぶされても平然としている。これほどの力を持った亜人は男性の亜人でも滅多にいない。まして女性の亜人でこれほどの力を持つものは珍しいどころか存在そのものが疑わしいくらいだ。
が、現実にそんな女性の亜人は今眼前に立ち塞がっている。
「手加減してやればいい気になりやがって……」
レジーはバチバチと不気味な光をまとう右手を握り締めながら、憎悪の瞳をその場にいる全ての人間と亜人に向ける。
「この私に逆らうことが許されると思ってるの? 私はアルテノスの女王《クイーン》になるのよ? 亜人が支配する最初の国……そう! 新世界の聖母《マリア》となって支配する存在だ。お前達が何人いても、私を倒すことなど出来ないのよ!」
――確かに……こいつは強い……!
アーネスカは思う。爆発系魔術も、氷系魔術も通用しない。それらは銃と魔術を組み合わせての力だ。しかし、レジーはそういった魔術的要因がなくても単体でこれだけの力を発揮している。どうすれば倒せるのか……。
「ギン!」
レジーは叫ぶ。そして語りかけた。
「せっかく体で教育してあげたのに……私を裏切るの?」
「俺は結合できる奴とは結合するだけだ……体を許したてめぇが悪いのさ」
その発言に顔をしかめたのはギン以外の全員だった。アーネスカは驚いて小声で言った。
「コイツナニ言い出すの!?」
「こんな言動ばっかりだから、私は助けたくなかったんだよね……」
ユウはやや呆れ気味にそう言う。確かに普通の女性なら引く。
「ああ、そう! 女なら誰でもいいわけね?」
レジーはこの驚くべき発言をした亜人に顔を引きつらせつつ、問うた。
「ああ、亜人だろうが人間だろうが関係ねぇ。○ン○突っ込めんならそれでAll OKだ。だが俺は仲間は裏切らねぇ」
「あんた……別の意味でムカつく……!」
その場にいた女性人は、心のどこかでその意見に限りレジーに賛同した。
「まあいいわ……」
レジーの右手がより強く光を放った。
「アルトネールお嬢様以外は、殺させてもらうから……」
「いくつか……お聞きしてもいいですか?」
アルトネールが一歩前に出る。それが時間稼ぎのためなのか、はたまた本当に聞きたいことがあるからなのかは彼女以外にはわからない。
「何かしら? お嬢様」
「なぜ私《わたくし》が必要なのでしょうか?」
それはこの場にいるレジー以外の全員が知りたいことだった。アルトネールが魔術回路を持つ特別な存在であるということは分かる。そして、本当にそれだけが理由なのかどうか……。
「いいわ……冥土の土産に教えてあげるわ。簡潔にね」
――よし……。
アルトネールは何とか時間を稼ぐことが出来たことに安堵した。もっともそれでこの場にいる全員が助かると決まったわけではない。しかし、1人として命を失わせてはならないと思う。時間稼ぎのコツはとにかく相手にしゃべらせることだ。そのために「いくつか」などという曖昧な言い方で質問をしたのだ。
「あなたの精神感応能力、我らが母はそこに目をつけたわ。天乃羽々羅《あまのはばら》で現在開発中のリヒト・ゴーレムの完成のためにね」
「リヒト・ゴーレム?」
「亜人側の切り札よ。人間を滅ぼす最終兵器。しかし、起動のためにはその依り代となる人間が必要なのよ。そして、その依り代は、魔術的才能がある人間だと最大限の力を発揮する。特にあなたのような……他人の精神にダイブできるなら、なおさらね……」
「他者に対して意識を開示することが出来る私の能力を逆利用し、制御しやすくするため……ですか?」
「驚いたわ……」
レジーは目を丸くする。どうやら本当に驚いているようだ。
「憶測だけで言っただけにしては的を得すぎている……その通りよ……。普通にお願いしたところであんたは首を縦に振ってはくれないでしょうからね。だから、多少強引な手を使わせてもらったわけ」
アルトネールは視線を細くした。
「私《わたくし》に自由意志はない……そういうわけですか」
「あるわけないじゃない。あなたはリヒト・ゴーレム完成のための生贄よ」
「そんなものに……」
「んなもんにされてたまるかよ!」
反発しようとしたアルトネールの代わりにギンが声を上げた。
「ギン……あなた……」
ギンはアルトネールの前に出る。それは彼女を守るという意思表示だった。
「コイツはてめぇなんかよりでっけぇ未来背負ってんだ……訳のわからねぇ兵器の生贄にされてたまるか!」
「同感だな……」
ギンが啖呵を切った直後、レジーの背後から再び第三者の声が響いた。
全身白い、巨躯《きょく》の亜人バゼルだ。
「遅かったじゃねぇか……」
「随分な言い草だな……これでも早い方だ……」
「…………」
レジーはその巨躯の亜人を見て心がざわついた。
――ドイツもコイツも……。
「観念しろ! これだけの数を相手に、貴様に勝ち目はない!」
バゼルが声を荒げる。確かに数の上では圧倒的に優位だ。しかし、このレジーという亜人の力には今だ不明な点が多い。数で上回っただけで勝てるかどうかはわからない。それはバゼル本人も分かっていることだった。
「ああああああもう!!」
レジーは左手でボリボリと頭を掻いた。
「亜人であるあんた達なら、私の理想……分かってくれると思ったんだけどな……」
そして虚空を眺める。その瞳が何を捉えているのかはわからない。
レジーの言葉に答えるかのように言葉を繋いだのはバゼルが最初だった。
「確かに我らは、亜人こそ正義だと思い込んでいた……そんな時もあった……だが」
「それは……」
続いてアーネスカの肩を借りながらユウが口を開く。
「それは……思い違いだった。私達は万物の霊長なんかじゃない。私達は私達、人間は人間。それぞれ個別の種族。ただ、人間以上の力があるかないかだけの違いでしかない!」
「そういうこった……」
と、丸眼鏡を上げて半裸の亜人ギンも続いた。
「てめぇが思ってるほど、亜人は素晴らしくねぇんだよ!」
「そう………………」
長い沈黙がその場を包み込む。潮風が全員の頬を撫でた。
「私にはわからない思想だわ……」
静かに呟くレジー。その直後右手の光が何かを弾くような音を発した。
つまり……彼女はあくまで人間の敵でいるという意思表示をしたのだ。
「私を止められるなら……止めてみなさい!!」
レジーの右手から激しい閃光が迸《ほとばし》る。
全員が構える。この中の誰かが死ぬかもしれない。アルトネールはその覚悟を決めてこの戦いを見守ることを心に決めた。
「おい! ありゃなんだ!?」
しかし、やや間抜けな言い方で、ギンがレジーの背後を指差して言った。
「そんな古典的な……!?」
それがはったりではないと気づくのにレジーはやや遅れた。全員がギンが指差した方向に目を向けていたからだ。
巨大な物体の飛来。全員がその姿に息を飲んだ。
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